「サムさん、私は何をすればいいですか……?」
ヒオがサムの後ろで震えながら聞いてくる。
これほどのモンスターに遭遇したのが初めてだからであろう。
サムはヒオの赤い髪を撫でる。

「安心しろ。誰も死なねぇよ。」
サムはヒオに微笑みを見せ、【村正】を握り直す。

「メリー!援護頼む!!」

「了解!」
メリーはビホルダーに向けて弓を放つ。
メリーの兵は先ほどのビホルダーの防ぎを見ると思っていた。
しかし、予想できない出来事が兵達を驚愕させた。

メリーの放った弓矢を足場に、サムはビホルダーに向けて飛んでいく。
ビホルダーの頭に乗る瞬間、【村正】を球体の上から突き刺しては次のビホルダーへと飛んでいく。

「最後だ!!」
残り1体のビホルダーを真っ二つに切り裂き、上空から一気に降下する。
しかし最後のビホルダーの位置が高くあったことから、かなりの高さ。
無傷ではすまない。
そのとき、落下地点にはグリーンが構えていた。
グリーンはサムを落とさず、綺麗にキャッチする。

「すまないな、グリーン。」

「力には自信ある。気にするな。」

「サムさん!!大丈夫ですか!?」
ヒオがサムの下へと駆け寄ってくる。

「大丈夫さ。まだ終わっちゃいない。」

「しかしどうする?あんな巨大な【ティラノサウルス】は一筋縄ではいかないぞ?」
グリーンが悩んでいると、サムは少し考えた後、気難しそうに言う。

「仕方ない。【あれ】をつかうか。」

「……あまりはオススメしないが仕方ないかもしれないな。無茶はするなよ?」
グリーンは少し心配そうに言うが、サムは少し笑っている。
ヒオは何のことかわからないまま、サムを見ていた。
グリーンの心配そうな様子をみて、ヒオも心配になる。

「じゃあ……いくか。」





「グォォォォォォォ!!」
大きな尻尾を振り回し、大暴れをする【ティラノサウルス】。
ペリアンの【火炎砲】もまったく効かなく、足止めが限界だった。

「オデッサさん。兵を引いてくださいませんか?」

「!!何いってるの!?」

「ちょっと無茶をしちゃいますが、このままでは危険です。離れていてください。」

「何をいってのよ!!そんなことできるわけ……。」
そのとき、ふたりの上空を何者かが飛び越える。
すると、大きな刀をティラノサウルスに目掛けて切りつける。
【ティラノサウルス】はよろめき、咆哮を放つ。

「あれは……。」
オデッサが見た人物は禍々しく黒い鎧を着た人物。
それを使える人物は【アルテミス】で唯一使えるのは

「サム!!あなたそれを使ったら……!!」
いつも使ってる【村正】と違い、禍々しいオーラを放つ二周りぐらい大きい刀【正宗】を所持している。

「【ダークスピリット】ですね。初めてみました。」

「あれは使う人物の生命力を奪って強くなるもの!!あれは危険だからあまり使わないようにしてるのに……。」

「いま使うべきだからですよ。僕もサムさんの負担を考えるとするべきですね。」

「あなた……まさか【ダークスピリット】を……!!」

「いえ、僕のは違います。【ダークスピリット】には劣りますが、十分な力を発揮できます。」
すると、ストーニーは剣を掲げる。

「我を守りし守護神パラディンよ。僕に力を与えたまえ。」
すると、ストーニーの周りは光に囲まれていく。
光が去った後のストーニーの姿は、神々しい光を放つ鎧で現した。
すると、【ティラノサウルス】へと飛び込んだ。
長剣を【ティラノサウルス】の首に切り裂く。
斬り付けた首の傷口は激しい光を放つ。

「シャイニーボム。」
すると、傷口は激しい爆発へと変わる。

「グァァァァァァァァ!!」
さすがに効いたようで、【ティラノサウルス】は大きく揺らぐ。
しかしストーニーが油断してしまった隙に、大きな尻尾はオデッサへと襲う。

「しまった!!」
その瞬間、尻尾は急停止してしまう。
オデッサの横には、サムが片手で尻尾を押さえつける姿が現れた。

「そろそろ決着つけようか。」
サムは尻尾の根元へと走り、尻尾を切断した。
【ティラノサウルス】が叫ぶ声がとどろくが、サムの攻撃は止まらず切り続けていく。
足、体、腕。
無数の傷をつけていき、そしてサムは【正宗】を構える。

「これで終わりだ!!」
【正宗】を【ティラノサウルス】の心臓部分へと突き刺した。

「グギャァァァァァァ……!!」
【ティラノサウルス】は断末魔を叫び、そして静かに息を引き取った。
その瞬間、サムは【ダークスピリット】を解き、その場へと倒れこんでしまった。



「……ん?」
目を覚ましたときはソファーの上にいた。
となりには、眠っているオデッサがいた。
いつものローブは脱ぎ、普段着を着ていた。

「目を覚ましたか。」
目の前には、イスに腰を掛けて本を読んでいたグリーンがいた。
いつもの重装備な鎧を脱ぎ、白衣でめがねをかけ、凛々しい姿。

「かなり無茶したみたいだな。ここ2日寝ているぞ。」

「そんなに寝ていたのか……。」

「大変だったぞ。ヒオは泣き出すわ、オデッサさんは2日寝ないで看病だ。おまけにストーニーも前の失敗は自分のせいだ、とかで自分責めてガイルと毎日一日中、周りのモンスター達と戦闘だよ。」

「へへっ。迷惑かけちまったな。」

「まったくだ。とりあえず、オデッサとヒオにはちゃんとお礼はしろよ。」

「あぁ。」

「じゃあ俺は寝る。おやすみ。」
グリーンは本をたたみ、自分の部屋へと戻る

「あいつ2日間、看病してくれてるじゃねぇかよ。」
フフッと微笑みながらもう一度、眠りへとついた。
スケルトンがほとんどいなくなり、メンバー達がサムのところへと集まる。

「それでストーニー、【魔獣】ってのはどんなやつが来てるんだ?」

「最も巨大な肉食恐竜【ティラノサウルス】がこちらに向かってますね。」
その名前に、メンバーは驚愕する。

「おいおい、そんなものまでいるのかよ。なんなんだこの世界は……。」

「そんなこと言っても仕方がないわ。やるしかないのよ。」
オデッサは弓を構え、メンバーのほうへ向く。

「みんな!!ここへくる【魔獣】をなんとしても撃退するのよ!!ここを守れなかったら、この砦の先にある私達の故郷【シンバ】の人達に危険にさらしてしまうわ!!」
おおぉぉぉぉ!!と兵たちの声と共に剣を構える。
すると、凄まじい咆哮がメンバーの前から響く。

「来たようだな。」

「みたいですね。」
目の前に現れてたのは7mはある血に飢えたティラノサウルスがいた。

「さすがにでけぇんだな。恐竜って……。」
ティラノレックスの気迫に少し後ず去る。
しかし、後ず去った先にはオデッサが待機していた。

「情けないわね。リーダーが後ず去ってどうするのよ。」

「そうだな。いくぜ、おまえら!!」
サムは【村正】を握り締め、ティラノサウルスへと走り出す。
ストーニーも同じく長剣を握り締め、ティラノサウルスへと飛び掛る。

「ストライクインパクト!!」
ストーニーの長剣はティラノサウルスの首に強い衝撃を与え、ティラノサウルスは大きく揺らめいた。
そこをサムは【村正】を上段で構える。

「いくぜ!縦一文切りぃ!!」
高く飛び上がり、そのまま剣を振り下ろしながら降下する。
ティラノサウルスは縦に切り付けれるが、まったく動揺せずこちらに向かってくる。

「ピンピンしてやがるぜ!」

「!!……。サムさん!上空からビホルダーがきています!!」
ストーニーが指したところには、球体に1つの目がある魔物。
その目からは魔力が高い放射線を出すという攻撃力が高くやっかいである。
そのビホルダーは3体おり、その下には怪我をした兵と治療を施していたヒオがいた。

「ヒオ!!そこから離れろ!!」
サムは全速力でヒオの元へ走る。

「メリー!ビホルダーを打ち落として!!」

「了解です!オデッサさんはそのティラノサウルスの注意をそらしてください!」

「わかったわ!」
メリーと兵はビホルダーに向けて弓を放つ。
しかし、ビホルダーは目の放射線で弓矢を焼き尽くす。
さらに球体から、目がついた触手が数本現れ、ヒオを襲おうとする。
その触手をサムはすべて切り落とす。

「はぁ……はぁ……。ヒオ、怪我した兵を連れて砦へ逃げるんだ!!」

「は……はい!!」
ヒオは怪我をした兵を1人ずつ担ぎ、砦へと運ぶ。



「ペリアン!!あのティラノサウルスに【火炎砲】を放って!!グリーンは怪我をした人を砦に運ぶのを手伝ってあげて!!」

「了解!【火炎砲】をあの怪物にぶっぱなせ!!」

「了解!!怪我した人を馬に乗せてすばやく砦に避難させるぞ!!」


ティラノサウルスとビホルダーからの攻防戦は凄まじい戦いになり始めたのだった。
「グリーン大佐!騎馬隊準備完了です!!」

「私に列を乱さず付いて来い!!」

うおぉぉぉぉ、という叫び声と共に横一列にランスを片手に突進するグリーン率いる【槍撃騎馬隊】
横一列となった騎馬隊はスケルトンを1匹のこらず吹き飛ばす。

「徒歩隊!生き残ったスケルトンを片付けろ!!」

通りすぎたスケルトンはいとも簡単に倒されていく。



「グリーンのやつやるなー。」
前方からのスケルトンを前にグリーンの攻撃に見とれる。

「ペリアン少佐!スケルトンがすぐそこまで来ています!」

「おぅ!てめぇら付いて来いよ!!」
ペリアンはすばやい動きでスケルトンを次々となぎ倒していく。

「おらおら!とろくせぇぞ、おめぇら!!」
次々と倒れていくスケルトン。
それに続くかのようにすばやい動きで倒していく。
ペリアン率いる【前衛乱部隊】は、すばやい動きで敵を混乱させていくことを得意とする。
ペリアンが先頭で攻撃して混乱し、後方から強力な魔力を持つ【火炎砲】で撃滅していく。
火炎砲を放つ位置はペリアンが指示し、放たれる位置から離れる。
危険であるが、すばやいペリアンにできる戦法。

「よっしゃ!火炎砲をぶっぱなせー!!」
激しく、重々しい爆発音がスケルトンの集団を襲った。


「皆さん、外さないように冷静でうちこんでください!」
メリーが率いる【援護弓士隊】
10班作り、1班が弓を放った瞬間に次の1班がうつという戦法。
1人が1発もはずさない集中力、構える速さが重要である。
メリーはエルフ流の弓の撃ち方。
矢を2本同時に放つという。
その2本の矢は外さないで敵に命中する。

「この集団がなくなるまで休みはありません!気を緩めないでください!!」

「しまった!」
ひとりの兵が敵への攻撃を外してしまい、距離が近くなる。
しかし、メリーはそれを見逃さずにそのスケルトンを打ち抜く。

「冷静に!!焦らなければ大丈夫です!!」



「さぁてっと……。」

「サム、どうするの?千体ぐらいはこちらに向かってるわよ。」

「なんでこんなに来るんだよ。ほんと、世界の歪みってのは迷惑だぜ。」
するとサムは腰の【村正】を引き抜き、刀を構える。

「援護頼むわ。」

「仕方ないわね。」

「よっしゃ。おめぇらいこか!」

うっす!!という声と共にサムに続き、複数の兵が剣を構え、突撃する。
剣と剣が交じり合い、作戦などないまま突撃する。
すると、1人の兵がスケルトンにやられていた。

「く……くそぉ……。」
スケルトンにとどめをさされる瞬間、サムが魔法を使う。

「くらえ!フレイムショット!!」

炎の玉がスケルトンを吹き飛ばす。

「すみません元帥……。助かりました。」

「気にするな。とりあえずオデッサに治療を受けてもらえ。」
怪我を負った兵は近くの兵に担がせ、戦いに戻る。



「ヒオ!いますぐこの人に包帯巻いてあげて!!」

「はい!!」
ヒオという少女は、【アルテミス】の唯一の衛生兵である。
赤髪のロングヘアーである。
見習いであるが、オデッサに負けないぐらいの治療を施す。

「ヒオ、あっちのほうが心配だからちょっと行ってくるから治療よろしくね!」

「わかりました!!」
オデッサは背中の弓を手に取り、スケルトンの集団へと向かう。



「ストーニーくん。いまチラッとみたんだけど、あそこにやっかいなのがいないかい?」

「……えぇ。ちょっとあれはめんどくさそうな【魔獣】ですね……。」
するとストーニーは背中の剣を手に取り、その場を立ち上がる。

「安心しナ!サポートはするゼ!」

「ありがとうございます。よろしくお願いします。」
ストーニーは長剣を片手に屋根から飛び降りる。



【魔獣】の接近に気づいたストーニーはサムの元へと動く。

「あ、ストーニーさん!どこいってたのですか!?」
着地した先に兵の手当てをしていたヒオが話しかけてきた。
ストーニーを説教しようとしたが

「すみません。でもいまはちょっと説教を聞いている時間がありません。失礼します。」

と軽く受け流し、スケルトンの集団へと飛び込んだ。

「え、あ!!ちょっとぉ~……。もぅ……。」



「サムさん。戦いの最中すみません。」
長剣を地面にたたきつけ、スケルトンを吹き飛ばす。
周りはストーニーとサムだけが取り残された。

「どうしたストーニー?いつもはこんなちっこい戦いには来ないのに。」

「えぇ。しかし先ほど屋根から【魔獣】がこちらに向かってくるのを見ました。」

「めんどくさいなぁ……。ストーニーがこっちにくるぐらいだから尚更ってことか。」

「なんなら僕1人に任してもかまいませんよ?」
ストーニーは少し微笑みを浮かべていた。

「バカヤロー。お前だけかっこつけさせねぇよ!」

「じゃあさっさとスケルトンを掃除しちゃいましょうか。」

「そうだな。」




ストーニーとサムはやってくる【魔獣】との戦いを心待ちしながらスケルトンを一掃していった。